思考訓練:敷金とクリーニング代

引っ越しの話をしたついでに、専門でも何でもない問題について、検索もせずに30秒ぐらい考えてみる訓練。

法令・判例より、敷金はデフォルトで全額が返還されるべきである」という話をよく聞きます。一見すると正論のようですが、「法令・判例より」という理由だけで思考を停止しては訓練にならないので、「なぜ返還されるべきなのか」をもうちょっと考察してみます。

すると、普通は「敷金はsecurity depositであって、通常の損耗にともなうクリーニング代やリフォーム代は別のところから出すべきだから」という理由になります。では、その「別のところ」とはどこでしょうか?

退去や入居のために必要となる費用を、すべて「毎月の家賃」に平均してしまうのは、(僕のように)すぐに引っ越す人が得をして、長く住む人は損をしそうでイマイチです。クリーニング代やリフォーム代は(おそらく)入居期間について線形比例しないからです。

礼金」というものもありますが、これは仲介手数料であって、損耗の程度によって増減はしないでしょうし、もし増減したら旧入居者による損耗を新入居者が負担することになり、やはりイマイチです。

「不動産屋や大家は金持ちで、俺たちは貧乏である。だから奴らが金を出すべきであって、俺たちは払わなくて良い。」という議論も(明示的ではなくても本質的に)非常によくありますが、それでは「いわゆる共産主義」になってしまいます。(もし本当に「いわゆる共産主義」が最善である、という主張ならば矛盾はしていませんが)

では、「敷金」ではなく、ちゃんと「クリーニング代・リフォーム代」として退去のときに徴収するのはどうでしょうか。これも払い渋る人が多そうでイマイチです。これから出て行く部屋の新調費用を素直に払う人ばかりならばOKですが…

すると、「クリーニング代・リフォーム代」をあらかじめ預っておき、余ったら返す、ということに落ち着いてしまい、(名前はともかく)結局は敷金と同様の制度になります。もちろん、見積もりが大ざっぱ過ぎるとか、過剰請求は言語道断ですが。

…いや、こんなことは専門家が何十年も研究しているはずなので、もっとマシな議論がきっとあるでしょうし、あまり真面目に突っ込まれても困りますが。でももし目の覚めるような「既存研究」があったら、好奇心のために教えていただければ幸いです。